2.霞町 ロマンチックな青春時代
僕の青春時代までは東京にはすてきな名前が町に付けられていました。いつからか誰かが、いや、誰だか分かっていますが、そのころの都知事や都議会議員をはじめ、その町に住む有力者といわれる人たちが勝手に町の名前を変えることにしてしまったようです。
東京の町には昔からその町の歴史と物語を含んだいい名前が付いていました。僕が俳優の卵として俳優座養成所に通っていた六本木界隈にあった、昔、箪笥を作る職人が住んでいたといわれる箪笥町とか、その箪笥の材料でもある木材業を営む人たちがたくさん住んでいたであろう材木町という町の名前も地図にはもう載っていません。当時都電でアルバイト先の新橋へつく前に新劇の大先輩女優、田村秋子さんの名字と同じ田村町とう名前の町があったり、僕が生まれた巣鴨の隣町だった駕町は今一体何と言う名前の町になっているのだろう。
今は無くなってしまった僕の好きな町の名前の霞町というのがありますが、今は「西麻布」というのだそうです。「霞町」は六本木と高樹町の間にある両方の町から長い坂道を下って行く坂の下の町です。坂の下の町には霧や霞が漂って、ぼんやりとロマンチックに町を覆って、人々のさまざまな出来事をはっきりと見えない様に隠してくれる。
霞町には昔からたくさんのロマンチックな物語が霞の中で出ひっそりと守られられてきたような気がします。霞町には僕の友人で声優の白石冬美さんが住んでおられました。白石さんはチャコちゃんと言う呼び名で知られていますが、当時僕はチャコちゃんの住んでいたマンションに時折お邪魔させていただいていました。僕の付き合っていた方が銀座などにお勤めだったので、夜のお帰りが遅く、その待ち時間をチャコちゃんの部屋でコーヒーや、時にはラーメン等で接待を受け、誠に申し訳なかったと今思い出します。霞町の霞の彼方の僕の青春です。